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熊本地方裁判所八代支部 昭和48年(ワ)71号 判決

原告

杉田義行

被告

株式会社坂元運送

ほか一名

主文

(一)  被告らは、各自、原告に対し八二万九二五六円と右金員について被告株式会社坂元運送につき昭和四八年七月二八日、被告塩鶴博文につき同年八月二九日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  原告の被告らに対するその他の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の、その他を被告らの各負担とする。

(四)  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告

(一)  被告らは、各自、原告に対して二八〇万円ならびに内二五五万円について被告株式会社坂元運送につき昭和四八年七月二八日、被告塩鶴博文につき同年八月二九日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は、被告らの負担とする。

(三)  仮執行の宣言

二  被告ら

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  原告の請求原因

(一)  事故の発生

原告は、次の交通事故によつて、傷害を受けた。

(1) 発生時 昭和四六年九月二七日午後二時四〇分頃

(2) 発生地 熊本県八代市日奈久中町五〇六番地先国道三号線路上

(3) 被告車 大型貨物自動車

運転者 被告塩鶴

(4) 原告車 普通乗用自動車

運転者 原告

(5) 態様 被告車が原告車に追突

(二)  責任原因

被告会社は、被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、被告塩鶴は、本件事故の発生につき前方不注視の過失があるから、民法七〇九条により、それぞれ原告の損害を賠償する責任がある。

(三)  損害

(1) 受傷の態様

原告は、本件事故によつて頸椎捻挫、腰部打撲の傷害を受け、昭和四六年九月二七日から同月二九日まで岡川病院に通院し、同月三〇日から昭和四七年二月四日まで一二八日間入院し、引き続き同月五日から同年一一月一八日まで通院(実日数二二五日)したが、九級相当の後遺障害を残している。

(2) 損害額

(イ) 入通院雑費 八万九〇〇〇円

(ロ) 休業損害 五八万二三五六円

原告は、本件事故当時、有限会社田代タクシーの運転手として稼働し、月収平均六万円を得ていた。しかし、原告は、本件事故により昭和四六年一〇月から昭和四七年四月までは全く稼働できず、その間昭和四六年一二月に支給されるべきボーナス四万円を含めて合計四六万円の休業損害を受け、又、昭和四七年五月から一一月までは、田代タクシーに配車係としての勤務を余儀なくされ、三一万二六四四円の収入を得たにとどまり、その間月収減額分合計一〇万七三五六円と同年六月に支給されるべきボーナスの減額分一万五〇〇〇円、合計一二万二三五六円の損害を受けた。

(ハ) 後遺症による逸失利益 一五一万二〇〇〇円

原告は、前記のとおり平均月収六万円であつたところ、前記後遺障害によりその労働能力の三五パーセントを失い、その継続期間を六年とみれば、その逸失利益は一五一万二〇〇〇円となる。

(ニ) 慰藉料 一八八万円

(ホ) 弁護士費用 二五万円

原告は、これまで再三にわたり被告らに対して損害賠償の請求をしたが、これに応じないのでやむなく熊本県弁護士会所属弁護士山田一喜に本件訴訟を委任し、その報酬として二五万円を支払う約束をした。

(ヘ) 合計 四三一万三三五六円

(3) 損害填補

原告は、被告らから二〇万円 自賠責保険から一三一万円を受領しているので、これを前記損害額から控除すると二八〇万三三五六円となる。

(四)  結論

よつて、原告は、被告らに対して二八〇万三三五六円のうち、二八〇万円とその内二五五万円について、被告会社につき訴状送達の日の翌日である昭和四八年七月二八日、被告塩鶴につき同年八月二九日からそれぞれ支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する被告らの答弁ならびに抗弁

第一、第二項、第三項(三)の事実は認めるが、その他の事実は不知。

原告の事故前三カ月の平均収入は四万六七〇五円である。

原告は、自賠責保険から仮渡金五万円を受領しているので、これを損害額から控除すべきである。

三 抗弁に対する原告の答弁

被告ら主張の仮渡金五万円を受領したことは認める。

第三当事者双方の提出、援用した証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

本件事故の発生については、当事者間に争いがない。

二  責任原因

被告会社が被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたことは、当事者間に争いがないから、自賠法三条により責任がある。

被告塩鶴が本件事故の発生につき過失のあることは、当事者間に争いがないから、民法七〇九条により責任がある。

三  損害

(一)  受傷の態様

〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故によつて頸椎捻挫、腰部打撲傷の傷害を受け、昭和四六年九月二七日から同月二九日まで岡川病院に通院し、同月三〇日から昭和四七年二月四日まで一二八日間入院し、更に引き続き同月五日から同年一一月一八日まで通院(実日数二二五日)したが、自賠責保険において九級相当の後遺障害の認定を受けたことが認められる。

(二)  損害額

(1)  入通院雑費 六万〇九〇〇円

原告が本件受傷により入通院したことは、先に認定したとおりである。したがつて、入通院雑費として、入院一日につき三〇〇円、通院一日につき一〇〇円を相当とするから、合計六万〇九〇〇円となる。

(2)  休業損害 四六万七三五六円

〔証拠略〕を総合すると、原告は、本件事故当時有限会社田代タクシーの運転手として勤務し、同会社から一カ月平均四万六七〇六円を得ていたほか、乗客からのチツプ等を取得していたこと、同会社の運転手は、昭和四六年、四七年当時、同会社から夏、冬のボーナス各四万円程度を受けていたこと、ところが、原告は、本件受傷により前記のとおり入通院した結果、昭和四六年一〇月から昭和四七年四月までは稼働することができず、更に、同年五月から同年一一月までは運転手としての稼働に耐えられず、配車係としての勤務を余儀なくされたため、その間夏のボーナスを含め合計三一万二六四四円を得たにとどまつたことがうかがわれる。

ところで、タクシー運転手が乗客より取得するチツプは、その性質上、確実性、安定性に欠けるにとどまり、違法、不当な収入とはいえないし、又、タクシー運転手としての労働の対価としての性質が否定されるものともいえない。そこで、チツプを控え目に見積もり、原告の本件事故当時の収入を毎月五万円程度と認める。したがつて、原告の休業損害は、昭和四六年一〇月から昭和四七年四月までの分として冬のボーナス四万円を含め三九万円、同年五月から同年一一月までの分として夏のボーナスを含め七万七三五六円、合計四六万七三五六円となる。

(3)  後遺症による逸失利益 一三万六〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告は、本件受傷により、自賠責保険において後遺症九級の認定を受けたこと、原告は、現在でも頭痛等を訴えることがあることが認められる。しかし、〔証拠略〕によれば、原告は、昭和四八年一二月から田代タクシーにおいて運転手として稼働し、チツプを除いても会社から毎月八万ないし九万円程度の収入を得ていること、右収入は、会社の他の運転手と比べ少くはないことがうかがわれる。

右事実によれば、原告の後遺症による稼働能力は、先に認定した配車係としての収入を考慮すると、昭和四七年一二月から昭和四八年一一月まで一年間二〇パーセント程度を失つたものと認めるほかはない。したがつて、後遺症による逸失利益は、一三万六〇〇〇円となる。

(4)  慰藉料 一六〇万円

先に認定した原告の入通院期間、後遺症の程度を斟酌すると、慰藉料としては、一六〇万円が相当である。

(5)  合計 二二六万四二五六円

(三)  損害の填補

原告が被告らから二〇万円、自賠責保険金から一三一万円を受領していることは、当事者間に争いがないから、これを前記認定の損害額から控除すると七五万四二五六円となる。

原告が自賠法による仮渡金五万円を受領したことは、当事者間に争いがないが、右は損害賠償額確定までは債務の性質を有するものであるからこれを前記認定の損害額から控除しないのが相当である。

(四)  弁護士費用 七万五〇〇〇円

原告が本件訴訟を弁護士山田一喜に委任したことは、本件記録上明らかである。したがつて、その弁護士費用は、前記認定の認容額のほぼ一割の限度で本件事故と相当性の範囲内にある損害と認めるのが相当であるから、七万五〇〇〇円となる。

四  結論

よつて、原告は、被告らに対し八二万九二五六円と右金員について被告会社につき訴状送達の翌日であることが記録上明らかである昭和四八年七月二八日、被告塩鶴につき同じく同年八月二九日からそれぞれ支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その他は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 福永政彦)

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